りこの万沢と十島とでやるのでございます。それにひっかかって御覧《ごろう》じろ、入墨者と女と、それからお尋ね者のような、あの竜之助様、忽ちに動きが取れなくなってしまうのでございますから、大丈夫、舟へかかる気遣《きづか》いはございません」
「七兵衛どの、そなたの言うように、あの三人が果して一緒におるものやら、それとも離れ離れになっているものやら、それもようわからぬではないか」
「三人は三《み》つ巴《どもえ》のようになって、ちょっとは離れられない組合せになっているのがおかしゅうございます。それとも離れる時には、どれか一つ命が危ない時で、まかり間違えば三つ共倒れになるのが落ちでございますから、そーっと置くのがかえって面白いんでございますがね」
こんな話をしながら兵馬と七兵衛は、富士川岸の険路を、前に言ったように西行越《さいぎょうご》え、増野《ますの》、切久保《きりくぼ》と過ぎて、福士川《ふくしがわ》のほとりへ来た時分には日が暮れかかっています。
「昨日の雨で、少し水が出たようでございますが、ナーニ、このくらいなら大したことはございません、川留めになるようなことはございません」
水のひたひた
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