つをすっかり任せてしまえば、女の絆《ほだし》から解かれることができる。竜之助はこうも思っているらしい。
 がんりき[#「がんりき」に傍点]はそれと知るや知らずや、
「女というものは、上手に拵《こしら》えるよりも上手に捨てるのが本当の色師だ、いい幸いでお譲りを受けて、持余《もてあま》し物《もの》をおっつけられて、それで色男で候《そうろう》と脂下《やにさが》っているには、がんりき[#「がんりき」に傍点]は、こう見えても少し年をとり過ぎた、そんな役廻りは御免を蒙《こうむ》りてえ」
 少しく声高《こわだか》になって、ふいと気がついたように、
「やれやれ、根っから詰らねえ痴話《ちわ》でたあいもねえ、それは冗談でございますが先生、こんなことも他生《たしょう》の縁とやらでございましょうから、これからわっしどもも先生と御新造のお伴《とも》をして、江戸まで参りましょう、道中ずいぶん忠義を尽しますぜ」
 この時、破《こわ》れた扉がガタリという。
 扉がガタガタと動いたかと思うと、そこへ身を現わしたのはお絹でありました。
「やあ、これは御新造様」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]は迎えに出る。
「どうもた
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