このがんりき[#「がんりき」に傍点]にはできませんな」
 逃げ腰になっていたがんりき[#「がんりき」に傍点]が、腰を落着けて言葉に力を入れる。
「いや、拙者は拙者で別にまた道がある、実はふとした縁であの女の世話になったが、心苦しいことがある、それで離れようと思うていたが、ちょうど幸い、お前が横合いから欲しいというによって、お前に任せたい」
「そりゃいけません」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]は首を左右に振り、
「それじゃあ事に面白味がありません、からっきり張合いにもなんにもなるもんじゃあございません、人のお余り物をいただくような心で、女をもの[#「もの」に傍点]にしてみようというような、そんながんりき[#「がんりき」に傍点]とはがんりき[#「がんりき」に傍点]が違います」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]は力《りき》み返る。竜之助は苦笑《にがわら》い。この小賢《こざか》しい小泥棒め、おれに張り合ってみようというのでさえ片腹痛いのに、死んだ肉は食わないというような一ぱしの口吻《くちぶり》。刀の錆《さび》にするにも足らない奴だがよい折柄《おりから》の端役《はやく》、こいつに女のいきさ
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