大菩薩峠
東海道の巻
中里介山
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)虚無僧《こむそう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)父|弾正《だんじょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「土へん+垂」、第3水準1−15−51]
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一
これらの連中がみんな東を指して去ってから後、十日ほどして、一人の虚無僧《こむそう》が大湊《おおみなと》を朝の早立ちにして、やがて東を指して歩いて行きます。これは机竜之助でありました。
竜之助の父|弾正《だんじょう》は尺八を好んで、病にかからぬ前は、自らもよく吹いたものです。子供の時分から、それを見習い聞き習った竜之助は、自分も尺八が吹けるのでありました。
眼の悪い旅には陸よりも船の方がよかろうと言ったのを聞かずに、やはりこれで東海道を下ると言い切って竜之助はこの旅に就きましたのです。
旅の仕度や路用――それは与兵衛の骨折りもあるが、お豊の実家亀山は相当の家であったから、事情
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