また失敗りました。こうなっちゃ、がんりき[#「がんりき」に傍点]も焼《やき》が廻って、少々心細くなりました」
「あれは遊行上人《ゆぎょうしょうにん》だというではないか」
「左様でございます、遊行上人。先生には斬られ損《ぞこな》い、坊さんには丸められちまい、せっかく磨《みが》いたがんりき[#「がんりき」に傍点]の面《かお》もつぶれそうでございますから、なんとか眼鼻のあくようにしようと思って、執念深くもしょっちゅうあれから、お後をつき通しでございました」
「後を跟《つ》いても跟《つ》き栄《ば》えもすまいな」
「ところがいいあんばいに、こんな風向きになりましたから、ここでまたどうやらがんりき[#「がんりき」に傍点]の目が出そうでございます」
「そうして、お前はどうするつもりで拙者をここまで連れて来た」
「どうするつもり? そうおっしゃられると、ちと御返事に困りますが、あっしどもの仕事は、こうすればこうなるというような算盤《そろばん》でやるんではございません、出たとこ勝負で、いたずらがしてみてえんで」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]は皮肉な薄笑いをして竜之助の面を横から見て、
「まず第一に
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