竜之助の天蓋の上から、脳骨微塵《のうこつみじん》と打ち蒐《かか》る。
鳥居の台石へ腰をかけた竜之助、体《たい》を横にして、やや折敷《おりし》きの形にすると、鳥居|側《わき》を流れて石畳の上へのめって起き上れなかった男。
「憎《にっく》き振舞《ふるまい》」
一座の連中のなかには老巧の人もいたけれど、こっちにも落度《おちど》があるとはいうものの竜之助の仕打《しうち》があまりに面憎《つらにく》く思えるから、血気の連中の立ちかかるのを敢《あえ》て止めなかったから、勢込んでバラバラと竜之助に飛び蒐《かか》る。
鳥居の台石からツト立った竜之助は、いま後ろへ流れた男の投げ飛ばした木剣を拾い取ると、それを久しぶりで音無しの構え。
社の玉垣《たまがき》を後ろに取って、天蓋は取らず。
五社明神の境内はにわかに大きな騒ぎになってしまって、参詣の人、往来の人、罵《ののし》り噪《さわ》いで立ち迷う。
そこへ仲人《ちゅうにん》に割って出でたものがあります。何者かと見ればそれは女。
「まあまあ皆様、お待ち下さいませ」
思いがけないこと、それは妻恋坂の花の師匠のお絹でありました。
お絹の仕えた神尾の先
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