ていたのを、俺らがそれでやられることになったんだ」
「危ないことだねえ、それをどうしてお前、助かったの」
「助からなかったんだ、俺らも突き落されて一ぺんは死んじまったのだよ」
「突き落されたの?」
「ああ、身体中へ縄をかけられてね、それで突き落されて死んじまったんだ、一旦は死んじまったんだけれど、与兵衛さんがその晩、そーっと死骸《しがい》を拾いに来てくれたんだよ」
「与兵衛さんが?」
「与兵衛さんは、せめて死骸でも拾って、仮葬《かりとむら》いでもしてやろうという御親切なんだね。それで俺らの死骸を担《かつ》いで来ると、その途中にお医者様が寝ていたんだよ」
「お医者様が寝ているというのはおかしいじゃないか」
「よっぽどおかしいよ、酔っ払って堤《どて》の上に寝ていたんだがね、そのお医者様を与兵衛さんと俺らと二人で踏みつけてしまったんだよ、暗いもんだからね」
「乱暴なことをしてしまったね」
「ところが、それでもってお医者様が眼をさまして、二人を見てね、病人ならここへ出せ、十八文で診《み》てやるなんて、おかしなことを言ったんだそうだよ。なんしろ仮りにもお医者さんだから、与兵衛さんがそこで俺らを診
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