かお題目とか、むずかしいものが彫ってあるんだそうだ」
「なるほど」
「そこでまあ意地と二人で、よしと請合《うけあ》って来てみるとあの始末だ。なあに、これは仕掛《しかけ》があって、誰か上人の方へ筒抜けをする機関《からくり》だとこう思ったから、小手調べに二つ三つ手近なやつを引ん抜いてみたら驚くじゃねえか、ちゃあんとあの上人が見抜いてしまやがった。あの人混みの中で、どうしてまあこっちの業《わざ》がわかるんだか、実際あの坊主の眼力《がんりき》には、このがんりき[#「がんりき」に傍点]も降参したよ」
「なるほど」
「けれどもこのままじゃ引込めねえ、あの上人も、こちとらを出し抜いた乗物も、みんなあと先になって東へ下るんだ、仕事はまだこれからよ。兄貴、お前もここで外《はず》すのは惜しかろう、盗人冥利《ぬすっとみょうり》だ、行くところまで行きねえな」
「いいとも」
この日、遊行上人もまた天竜寺を出でて東へ下りました。
一行六人、それに米友を加えて七人の旅でありました。
この一行のために船賃も橋賃も御免でありました。わざわざ出て来て拝む者もありました。宿《しゅく》へ着くと羽織袴の人が迎えに来て、
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