んか》を切ってみたものよ」
「なるほど」
「ところがその頼んだ奴の言うことには、がんりき[#「がんりき」に傍点]、そう易く言うが、この相手はちいーと違うぞ、なんしろそれ、仏眼《ぶつがん》とやら神通力《じんずうりき》とやらで、人の心をちゃあんと見抜いてしまう坊さんだから、いくらお前が忍びや盗人が上手でも、うっかり傍へも寄れめえとこう言うんだ」
「なるほど」
「そう言われるとこっちも癪《しゃく》だあな、よし、向うが仏眼なら、こっちもがんりき[#「がんりき」に傍点]だ、一番その遊行上人とやらを遣付《やっつ》けましょうと、こう両肌《もろはだ》を脱いじまった」
「なるほど」
「よし、お前がその意地なら腕に撚《よ》りをかけてやってみろ、幸い、あの遊行上人は、天竺《てんじく》から来たという黄金《きん》の曼陀羅《まんだら》の香盒《こうごう》というものを持っている、それをしじゅう懐中《ふところ》へ入れているからそれを盗んでみろと、こう言うのだ」
「なるほど」
「ようがす、その香盒とやらの形はどんなものだと聞くと、直径《さしわたし》三寸ぐらいの丸い小《ちっ》ぽけなもので、黄金《きん》で出来ていて、曼陀羅と
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