しくじり》だ」
がんりき[#「がんりき」に傍点]が愚痴《ぐち》をこぼすと七兵衛が笑いながら、
「俺もおかしいと思ったよ、裏で、いま合図があるか、いま合図があるかと待っていたが、いつまでたっても音沙汰が無え、そのうちに泥棒! という騒ぎになったから、こいつ失敗《しくじ》ったなと思って逃げ出したが、自分ながらばかばかしい」
「兄貴の前へも面目が無え。それにしても、あの遊行上人という坊主は只者《ただもの》じゃねえな」
「そりゃあそうさ。いったい、遊行上人に食ってかかろうというお前の了簡方《りょうけんかた》がわからねえ、ほかに仕事がねえじゃあるめえし」
「それにゃ兄貴、仔細《わけ》があるんだ、あの坊さんに意趣も遺恨もあるわけじゃあねえが、頼まれたことが一つあるんだ、それは名前は言わねえが、ほかの宗旨の奴から頼まれたというのは、これがんりき[#「がんりき」に傍点]、貴様も忍びと盗人《ぬすっと》にかけちゃかなりの腕だそうだが、どうだ一番、遊行上人のものを盗んでみろと、こういうのだ」
「なるほど」
「遊行上人であろうとも、弘法大師であろうとも、盗もうと思ったらきっと盗むと、まあこんなふうに啖呵《た
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