ば》られたりしたんじゃあ、ほんとにやりきれねえ。それに和尚様、おらあ、この通り片足が悪いんですからね。この片足でお前様、東海道を江戸まで、ひょこひょこ歩いて行こうというんですからね。不具者《かたわもの》だから世間が不憫《ふびん》をかけてくれてもいいんだろう、それをお前、あっちでも粗末にしたり、こっちでもぶん[#「ぶん」に傍点]撲ったり、俺らの身にもなってみねえな、ずいぶん辛いよ」
 聞いている者は、無邪気な米友の憤慨を聞いて吹き出したうちにも、なんとなく眼に涙を持ってきて、なるほどこれは悪人ではないという気になりました。
 遊行上人も米友の言いぶりを聞いて微笑しました。

         五

 いつか天竜を渡って秋葉山道《あきばさんみち》の淋しい辻堂の中。
「昨夜《ゆうべ》くれえドジを踏んだことは無《ね》え、めざして来た乗物を天竜寺へ追い込んで、こいつは鴨が葱《ねぎ》を背負って来たようなものだと思ったら、なあーんのこと、向うの方が上手《うわて》で、天竜寺へ参詣と見せて籠抜《かごぬ》けだ、それにあの坊さんに腹ん中まで見透かされて、命からがら逃げ出して来たなんぞは、近来に無え図の失敗《
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