逃げないうちに、もう一度探してみろ」
 米友は米友で押えておいて、またがんりき[#「がんりき」に傍点]を探しにかかる。いつまでまごまごしているものではない、がんりき[#「がんりき」に傍点]の姿はどこを尋ねても見えるものではありませんでした。
「とにかく、そいつを引括《ひっくく》れ」
 役人は米友を縄《なわ》にかけようとする。
「おや、俺《おい》らを縛るのかい、なんで俺らを縛るんだ」
 引き出される時は尋常に引き出されて来た、ともかくも、黙って縁の下へ寝たのは悪い、悪いところはあやまった方がよかろうと思うから、尋常に引張り出されて来たのであるが、言いわけも聞かないで縄にかけるというのはいかにも了簡《りょうけん》がなり兼ねる、それはひどい、無理だ、と思ったから米友はムキになりました。
「なんで俺らに縄をかけるんだか、それを言ってもらいてえ」
「貴様はこの下で何をしていた」
「ここで寝ていたんだ」
「嘘《うそ》を言え、もう一人の仲間はどうした、白状しろ」
「仲間? 仲間がどうしたんだ、俺らは一人きりなんだ、一人で旅をして来てここへ寝たんだ、仲間なんぞはありやしねえ」
「嘘を言うな、太い奴だ」
前へ 次へ
全117ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング