まで飛び下りた身の軽さ。どこといって逃げ場所がないから、がんりき[#「がんりき」に傍点]は縁の下へ逃げ込んでしまいました。
 警護の侍たちや参詣の群衆は直ぐに縁の下へ追いかけましたが、それに捉《つか》まったのは運悪く、がんりき[#「がんりき」に傍点]でなくて米友でありました。
 米友は旅の疲れで、ついうとうとと眠りかけているところを、遮二無二《しゃにむに》折重なって、
「いた、いた」
「な、な、なにをするんだい」
 寄ってたかって米友を縁の下から引張り出したのであります。
 別に悪いことをしたわけでもないからと思って米友は、別に抵抗もせずに引き出されて来たのでありました。明るい所へ出して見ると、
「おやおや」
 取捉《とっつか》まえた連中も少し呆《あき》れ面《がお》です。いま追いかけたのは、もっと身のこなしが人間らしい男であったが、これは子供、子供のように見える大人、大人のように見える子供。
「こりゃ違う」
 誰が見ても米友とほかの人とは一見して区別がつくのであります。
「同類の者であろう」
 違ったとはわかったけれども、それでも厳《きび》しく押えて逃がそうとはしません。
「それ、遠く
前へ 次へ
全117ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング