ふ仇人《あだびと》の
浮気《うはき》も恋といはしろの
結《むす》び帛紗《ふくさ》の解きほどき
ハリサ、コリャサ、
よいよいよい、よいとなア
ツテチン、ツテチン
[#ここで字下げ終わり]
心なき門附《かどづ》けの女の歌。それに興を催してか竜之助も、与兵衛が心づくしで贈られた別笛《べつぶえ》の袋を抜く、氏秀切《うじひでぎり》。伽羅《きゃら》の歌口《うたぐち》を湿《しめ》して吹く「虚鈴《きょれい》」の本手。明頭来《みょうとうらい》も暗頭打《あんとうだ》も知ったことではないけれど、父から無心に習い覚えた伝来の三曲。
呼続浜《よびつぎはま》から裁断橋《さいだんばし》にかかる。
こうして見れば、机竜之助もまた一箇の風流人であります。
それから浜松へ来るまでは別条がありませんでした。
浜松へ入って、ふと気がつくと、いつのまにかムク犬がいないのです。竜之助は名を呼んでみましたが、姿を見せません。立って暫らく待っていたが、どこから来る様子も見えません。
さすがに物淋しくてなりませんでしたが、尋ぬる術《すべ》もありませんから、一人で浜松の城下へ入りました。浜松は井上河内守六万石の城下。
「お
前へ
次へ
全117ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング