してしまいました。
広いようで狭い浜松の町はここで尽きて、米友の身は馬込川《まごめがわ》の板橋の上に立っていました。振返ると、浜名の方に落ちた夕陽《ゆうひ》が赤々として、お城の方の森蔭にうつっています。
「ああ、今夜も野宿《のじゅく》かな。これからまもなく天竜川の渡し、そこへ行くまでの間で、社《やしろ》かお寺の庇《ひさし》の下をお借り申さなくちゃあならねえ。それとも夜通し突っ走って、行けるところまで行こうかしら」
米友は思案しながら松並木を歩き出して、天神町の立場《たてば》から畷道《なわてみち》を、宿になりそうなところもがなと見廻しながら行くと、ほどなくやぐら[#「やぐら」に傍点]新田というところあたりへ来てしまいました。
「何だい、あそこで大へんな燈火《あかり》がする、御縁日《ごえんにち》でもあるのかな」
東へ向って左手の方、五六町も離れて少し小高くなったところに、大きな屋根が見えてあって、その周囲に町が立っています。
「行ってみよう」
米友はそこへ杖を枉《ま》げて、
「なるほど、大きなお寺だ。御縁日なんだな。よしよし、このお寺の裏の方にどこか寝るところがあるだろう」
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