する」
「そりゃ後廻し」
二人はこうして寝込んでしまう。今度はほんとうによく眠りつづけて、翌朝、ほかの客よりもおそくまで眼が覚めませんでした。
その翌朝、大米屋の前へ二挺の駕籠《かご》が止まると、主人や番頭が飛んで出て頭を下げました。
ほどなく二階の二番の部屋から女中に手を引かれて静かに出て来た人、がんりき[#「がんりき」に傍点]と七兵衛が多年の老巧を以てしてついに何者であったか見抜けなかった人。
女中に手を引かれて歩いて来ても、やっぱり何人であるかはわからない。それは黒の井桁《いげた》の紋付の羽織と着物を重ねていたが、面《かお》と頭は黒縮緬《くろちりめん》の頭巾《ずきん》で隠していたから。
女中に手を引かれたのは眼が不自由なためらしい。そうして、脇差を差して刀を提げて、悠々と店先まで出て来ると、駕籠の垂《たれ》が上ってその中から姿を見せたのはお絹。
駕籠につづいて馬が来る、その馬には明荷《あけに》が二つ、いずれも井桁の紋がついている。そうすると、二階から下ろされたのは、ゆうべ問題になった朱漆の井桁の葛籠《つづら》。
二つの駕籠が勢いよく乗り出すと、つづいて葛籠を載せた
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