ます。
紙張と葛籠を相手に妙な暗闘、とうとうがんりき[#「がんりき」に傍点]の精根《せいこん》が尽きたと見えて、ジリジリと退却、紙張と葛籠を睨めながら、脇差に手をかけたなりで、あとじさりに敷居を越えて、ついに部屋の外へ出てしまいました。それでも感心に障子は元通りに締めておいて、
「降参、降参」
「どうした」
狸寝入《たぬきねい》りをして待っていた七兵衛の枕許へ来たがんりき[#「がんりき」に傍点]、そこで兜《かぶと》を脱ぐ。
「とても俺の手には合わぬ、兄貴いくなら行ってみろ」
「弱い音《ね》を吹くじゃねえか」
七兵衛は起き上る。七兵衛も寝ながら後詰《ごづめ》の身ごしらえしていたが、がんりき[#「がんりき」に傍点]からいま忍び込んだ様子の首尾を逐一《ちくいち》きいて、
「なるほど、そりゃいけねえ、こっちよりたしかに一枚上だ、せっかくだが、俺もやめる」
七兵衛は身仕度を解《ほぐ》しはじめる。
「チェッ」
がんりき[#「がんりき」に傍点]は舌を鳴らして、
「このままで引込むのも業腹《ごうはら》だ、明日になったらひとつ正体を見届けての上で、物にしなくちゃならねえ」
「天竜寺の方は、どう
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