へ寝たところが心得のある証拠だ、ただものでは無《ね》え」
「どうだ一番、あの紙張の中と、葛籠の中、鬼が出るか蛇《じゃ》が出るか、俺とお前の初《はつ》のお目見得《めみえ》にはいい腕比べだ、天竜寺の前芸《まえげい》にひとつこなしてみようじゃねえか」
「そいつもよかろう」
「それでは籤《くじ》だ」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]は早速、紙で籤をこしらえる。七兵衛が短いのを引いて、がんりき[#「がんりき」に傍点]が長いのを引く。それでがんりき[#「がんりき」に傍点]がニッと笑って、
「兄貴、それじゃお先へ御免を蒙《こうむ》るよ」
「しっかりやってくれ」
「まだ早いな」
 また一口飲んで、蒲団《ふとん》を敷いてもらって、二人は寝込んで夜の更《ふ》けるのを待っています。

 がんりき[#「がんりき」に傍点]が夜更けて再び忍んで行った時に、かの部屋の燈火《あかり》は消えていました。障子の外で暫らく動静《ようす》を窺《うかが》っていたがんりき[#「がんりき」に傍点]。暫らくすると音もなく障子があいて、がんりき[#「がんりき」に傍点]は部屋の中へ入ってしまいます。
 身を畳の上に平蜘蛛《ひらぐも》の
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