つ》に納めながら、
「小天竜《こてんりゅう》を渡るとそれ、中の町というのがある」
「うむ」
「京と江戸とのちょうどあそこが真中で、ドチラへも六十里というところよ」
「そんなことも聞いている」
「その小天竜と中の町の間に大きな寺があらあ」
「なるほど」
「天竜寺という名前だけは知っていらあ、宗旨《しゅうし》は何だか知らねえ」
「それがどうしたんだ」
「その寺へ今夜仕事に入りてえと、こういうわけなんだ」
「ケチな仕事じゃあねえか、寺を荒すくれえなら……」
「まあ待てよ、そこにはまた種《たね》と仕掛《しかけ》があるんだ。その天竜寺という寺へよ、この三日ばかり前から遊行上人《ゆぎょうしょうにん》が来ているんだ」
「ゆぎょう上人ていのは何だい」
「藤沢の遊行上人よ」
「なるほど」
「そいつをひとつおどかしてみてえと、こういうわけなんだ」
「遊行上人をかい。お前、遊行上人というのは大したものじゃねえか、小栗判官《おぐりはんがん》のカラクリで俺もうすうす知っている。しかし、どっちにしたところで坊さんは坊さんだ、逆さに振ってみたところで知れたものじゃねえか」
「それはそうよ、なにもこちとらが遊行上人を
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