か、笠を取って見たら、もっとずっと若いかも知れない。
 いよいよ変な奴と七兵衛は思いました。
 こうして二人は、鞠子《まりこ》の本宿《ほんじゅく》から二軒家《にけんや》、立場《たてば》へは休まずに宇都谷峠《うつのやとうげ》の上りにかかりました。

「旦那、ここらで一ぷくやって参りましょうかね」
 銀ごしらえの脇差が腰をかけたのは名代の猫石、木ぶりの面白い松があたりに七八本。
「どうも大変なところへ連れ込まれた」
 七兵衛もまた大きな石へ腰をかける。
「これが古《いにし》えの蔦《つた》の細道《ほそみち》、この石が猫石で、それ猫の形をしていましょう、あれが神社平《じんじゃだいら》」
「なるほど、本街道はたびたび通るが、蔦の細道というのはこれが初めてだ」
「時に親方」
 銀ごしらえは改まった言葉つき、旦那と呼んでいたのが親方になりました。
「何だ」
「仕事が一つあるんだが、付合ってもらいてえ」
「仕事? 品によりゃ付合わねえもんでもねえ、言ってみねえ」
 銀ごしらえの眼と七兵衛の眼がピッタリ合う。
「こういうわけなんだ」
 銀ごしらえは、吸いかけた煙草を掌《てのひら》ではたいて、それを筒《つ
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