竜之助は、声を立てようとして舌が縺《もつ》れる。
「まあ、どうかなさいましたの」
その声で竜之助は眼を見開いてホーッという息。
「大へんな魘《うな》され方ではありませんか」
再び眼を見開いたつもりであったが眼に力がありません。蒲団の上から差覗《さしのぞ》いていたのはお絹でありました。
「夢でもごらんになったのですか、お冷水《ひや》でもあがって、気をお鎮めなさいまし」
枕許《まくらもと》にあった水指《みずさし》から、湯呑に水をさしてお絹が竜之助の手に渡しました。顫《ふる》えた手で竜之助はその湯呑を受取ろうとして取落す。
「おやおや、水をこぼして」
お絹は困って、片手で何か拭《ふ》くものを探そうとしました。竜之助は、またその湯呑を取り直そうとしました。その二人の手が重なり合った時に、ハッとしてそれを引込ませました。
「気が落着いたら、ゆっくりお休みなさい、まだおかげんが悪ければ女中を起しましょう」
「いや、もう大丈夫、お世話になって相済まぬ」
お絹は竜之助が落着いたのを見て、自分の寝床へ帰ってしまいました。
竜之助の感はいよいよ冴《さ》えて眠れません。
眠れないでいると、一間
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