「…………」
「そうしているうちに、そのお池ではいちばん大きな真鯉《まごい》、二尺もあろうというのが、眼の前で、ピンと水を切って飛び上りましたから、女中たちもみんな驚きました、わたしも驚きました」
「…………」
「鯉の跳《は》ねるのはなにも不思議はないが、常の跳ね様とは違って、一跳ね跳ねてから、それがクルクルと水の中を舞ってもがき苦しむのです、そりゃ見ていても凄《すご》いほどでございました。なんしろ鯉はほかの魚と違って、俎《まないた》の上へ載せられても、三十六|鱗《りん》ビクともせぬという、人間で言えば男の中の男、それが苦しがって器量いっぱいもがき苦しむのですから、そりゃ見ていても凄くなります」
棚を走る鼠としては温和《おとな》しいと思うと、外ではこの時分から、時雨《しぐれ》が古寺の屋根を濡らしている。
古寺の軒端《のきば》からも玉雫《たまだれ》が落ちて瓔珞《ようらく》の音をたてる。外はしめやかな時雨。柴の乾きがよいので、炉では焚火の色が珊瑚《さんご》を見るよう。お絹は飽かずに語りつづける。
「どうして、烏がいじめたり、狆《ちん》がちょっかいを出したりするくらいのことで、こんなこ
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