、冷やかな竜之助の態度を見て、反抗的に単純な感情がたかぶって来るのでありました。
「わたしが悪うございました、わたしが悪いのでございます」
「お前が悪いことはあるまい」
竜之助は冷々《れいれい》たるもの。
「いいえ、わたしが悪いのでございます、その方を殺したのはわたしでございます、あの方は自害をなすったのではございませぬ、わたしが手にかけて殺したのでございます」
「お前があの女を殺した?」
「はい、わたしが歌をうたわなければ、あの方は死ぬのではありませんでした、わたしが歌をうたったばかりに、それを聞いて死ぬ気になったのでございます、それですから、わたしが手を下《くだ》して殺したのも同じことでございます」
お玉は熱狂する。
「なんだか、お前の言うことはわからない」
竜之助は冷淡。
「わからないことはございません、わたしが間の山節をうたいまして、それをあの方が離れでお聞きなすって、それから死ぬ気になったのでございます、このお手紙にもそれが書いてございます、鳥は古巣へ帰れども、行きて帰らぬ死出の旅と、わたしの歌が遺書《かきおき》の中に書き込んであるのが証拠でございます」
「それは妙
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