から乾かすようにしておいて、二人が焚火を囲んで座を占めます。
「紙の方が乾きが早いや、もうこれカサカサになった、もとのように捲《ま》いて封じ目を拵《こしら》えておいてやれ」
 笠の上の濡れ手紙が乾いたから、米友はそれを捲き直そうとすると、
「友さん、お前は字が読めたねえ」
「読めなくってよ、いろはにほへとから源平藤橘《げんぺいとうきつ》、それから三字経《さんじきょう》に千字文《せんじもん》、四書五経の素読《そどく》まで俺らは習っているんだ」
 米友は少しく得意の体《てい》。
「それはよかった、それではその手紙は、どこへ届けるのだか読んで下さい」
「何だって? お前、届先を聞かねえで手紙を頼まれて来るやつもねえもんじゃねえか。どれ、読んでみてやろう」
「読んで下さい、こんな騒動がなければ早く届けて上げるんでしたに」
「エート」
 米友は仔細《しさい》らしい面《かお》をしてその手紙の表を見て、
「女文字《おんなもじ》だね、女にしちゃよく書いてある。なんだ……大湊《おおみなと》、与兵衛様方小島様まいる――おやおや、この宛先は大湊だよ」
「まあ大湊……それではまるでこことは方角違い、早く届けれ
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