ろへ入れていたのを、この時までちっとも気がつかなかった。落してみればその手紙、同じようにグッショリと濡れ切っていました。
「これは大切なもの、今まですっかり忘れていた」
お玉は、あわててそれを拾い取って、
「申しわけがない、こんなに濡らしちまって」
この時、米友の焚きつけた火はよく燃え上る。
「手紙かい、濡れたんなら、ここで乾かすがいい、火であぶってやろう」
大事そうにお玉は濡れた手紙を取って米友に渡しながら、
「昨晩《ゆうべ》、備前屋で頼まれた手紙、懐ろへ入れたまんまで今まで忘れていました。ああ、お金の方はどうなったかしら」
「頼まれ物は大事にしなくちゃあいけねえ。おやおや、グショグショだ、封じ目もなにも離れちゃった、このままでは手がつけられねえ。おっと待ったり、いいことがある、この笠の上へ拡げて、遠火《とおび》であぶるとやらかせ」
被《かぶ》って来た笠の上へ濡れた手紙を置いて、封じ目もなにも離れてしまったから、爪の先で拡げて火の傍へ持って来ます。その間にお玉は米友の衣裳《いしょう》に着替えてしまって火の傍へ来ると、米友は干場にかけた着物を表は天日《てんぴ》で、裏は焚火で両面
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