は上着を脱いでしまうと下着、その上着だけを米友が手早く取って干場へかける。
下着と襦袢とを一緒に脱いで、後向きにお玉の半月のような肩が顕《あらわ》れる。火を吹いていた米友が、
「それ、何か落っこった」
「調戯《からか》っちゃいけないよ」
「何か落ちたよ」
「そんなことを言うもんじゃありませんよ」
お玉は赤くなって、素早《すばや》く米友の着物を着換えてしまう。
お玉は米友が、わざと調戯っているのだと思っています。
「大事なものじゃねえのかい」
「およしなさいよ」
「それ、そこに」
「いやだね」
「そこに白いものが落ちてるじゃねえか」
白いものと言われて、お玉はハッと気がつきました。米友は調戯《からか》っているのでもなければ嫌味《いやみ》を言っているのでもない、またそういうことの言える人間でもないのであって、事実、お玉が着物を着換えようとしてそこへ取落したものがあったのです。
「アッ、これは」
事に紛《まぎ》れて今まですっかり[#「すっかり」に傍点]忘れていたが、これは昨晩、備前屋の裏口で幽霊のような女から頼まれた手紙――金の方は包みかけて置きっぱなしで逃げて来たが、手紙だけは懐
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