らいなもんだ」
「それじゃあ済まないけれど、そうしておくれ」
「そうしてやらあ」
 米友は無雑作《むぞうさ》に帯を解いて、自分の着ていた着物を脱いでクルクルと纏《まと》めてお玉に渡します。
 なるほど、米友は自分で裸の方が好きだという通り、見た目にも裸の方がよろしいのでありました。着物を着ていたんでは小兵《こひょう》の米友の肉の締りかげんはわからないが、着物を脱ぐとはじめてその筋肉の美観が現われる。名工の刻んだ四天王の木彫を見るような骨格肉附。
「ほんとうに友さんの身体は小柄だけれどもよく締まっていること」
 お玉はお愛想を言って、米友の脱いで貸してくれた着物を受取ります。
「火を焚きつけてやろう、火をひとつ」
 持って来た所帯袋から米友は火打を取り出して、松葉や枯枝を掻き集めて焚火をはじめると、お玉は後ろを向いて帯を解いて上着から脱ぎかける。
「早く引き上げてもらったから、水の透《とお》らないところもあるけれど、帯の間なんぞは、こんなにグチャグチャ」
 帯にも下締《したじめ》にも水が入っている。
「風邪《かぜ》でも引くといけねえ」
 米友は猿のような口を尖《とが》らして火を吹く。お玉
前へ 次へ
全148ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング