脱げば裸《はだか》になってしまうじゃないか」
「裸だって仕方が無え」
「裸になるのはいやだねえ」
「いやだって、その濡れた着物を着ちゃあいられめえ」
「それだってお前」
「何だい」
「恥かしいねえ」
お玉は、はにかん[#「はにかん」に傍点]で面《かお》を赤くする。米友は猿のような眼を円くして、
「恥かしい?」
そう言って四方《あたり》を見廻したが森閑《しんかん》たる谷の中。
「恥かしいったって、誰もいやしねえじゃねえか」
「誰もいないったって、恥かしいわ。それにお前も見ているじゃないか」
「俺《おい》らが見ていたって……」
米友は四方《あたり》を見廻した面をお玉の面へ持って行くと、
「うん、なるほど、お前が裸になるのがいやなら、俺らが先に裸にならあ」
「友さん、お前が裸になってどうするの」
「俺らの着物をお前に着せてやろう」
「それではお前が裸になるじゃないか」
「そりゃそうさ、どっちかひとり裸にならなけりゃ納まりがつくめえ」
「それでもお前を裸にしちゃあ気の毒だわ」
「お前は裸になるのが恥かしいというじゃねえか、俺らは裸なんぞはちっとも恥かしいとは思わねえ、裸の方がいい心持なく
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