やることになるんだ、さあ来やがれ、今までは米友様の御遠慮でなるべく怪我のねえように扱ってやったんだ、こうなりゃ肉も血も骨も突削《つっけず》るからそう思え、千人に一人も逃しっこはねえぞ、淡路流の槍に米友様の精分が入ってるこの槍先の田楽串《でんがくざし》が一本食ってみてえ奴は、お辞儀なしに前へ出ろ、それがいやなら道をあけて通しやがれ」
この猛烈なる悪態《あくたい》で浮足立った人が総崩《そうくず》れになって、奔流《ほんりゅう》の如く逃げ走る。兵馬に槍を貸すことを謝絶《ことわ》った役人連中までが逃げかかる。
「ともかくも、そのお槍をお貸し下さい」
逃げようとした槍持の手から兵馬は手槍を奪い取る、奪い取ったのではない、抛《ほう》り出して逃げようとしたのを兵馬が拾い上げたまでなのでありました。兵馬がその槍を拾い取ると、
「あ、殺《や》られた」
米友はついに捕手か弥次馬かを突き伏せてしまったと見える。
血を見ると寄手《よせて》も狂う、米友はなお狂う。一人突くも十人突くも罪は同じ、それで米友は死物狂《しにものぐる》いになったらしいのであります。
曲芸気取りでやっていてさえ、米友の網竿《あみざ
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