方が得策でござる、捨てておかっしゃい」
「いやいや、あの勢いではなかなか以て疲れは致しませぬ、たとえ一時《いっとき》たりとも参宮の街道を、あの狼藉《ろうぜき》に任せおくは心外、よって拙者が応対をしてみたいとの所望、それを御承知願いたい」
役人は、兵馬が小賢《こざか》しい物の言いようをするとでも思ったのか、
「せっかくながら狼藉を取鎮めるは拙者共の役目、貴公らのお骨折りには及び申さぬ」
「しからば是非もない」
兵馬はぜひなく立って、なお米友とムクとの働きぶりを見ようとしたが、人立ちで背伸びをしても中を覗くことができませんでした。ただ中でワァーッという声が崩れるように湧くばかり。
「そうれ来た! 逃げろ」
兵馬の前にいた黒山の人間が浮足立《うきあしだ》って崩れると、その中で米友の大音。
「やい、やい、いつまでもこうしちゃいられねえ、道をあけなけりゃあ、血を見せるぞ、血の河を流して人の堤《どて》を突切るからそう思え、俺《おい》らは悪人でねえから血を見るのも嫌《きれ》えだし、見せるのもいやなんだが、汝《てめえ》たちがあんまり執念《しつこ》いから、一番、真槍《しんそう》の突きっぷりを見せて
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