背中を見せねえようにしろ、後ろからそっ[#「そっ」に傍点]と忍んで来る奴があったら、おれが承知だから遠慮なく食いついてやれ、噛み殺してもかまわねえぞ」
大榎とムク犬を後ろにして立った米友。身近に来る石という石、瓦という瓦を、或いは竿を繰延《くりの》べて前で受け、或いは竿を手許に繰込んで面の前で受け、或いは身を沈めて空《くう》を飛ばせ、体を躍《おど》らせて飛び上る。
「やいやい、もちっと骨身のある投げ方をしやあがれ、ぶっついたら音のするように、当ったら砕けるように投げてみねえ、米友様が食い足りねえとおっしゃる――ナニ、鉄砲だって?」
米友は屋根の上を屹《きっ》と見る。生薬屋《きぐすりや》の屋根の上へ火縄銃を担《かつ》ぎ上げたのは、米友も知っている田丸の町の藤吉という猟師であったから、
「ふざけちゃあいけねえぜ、米友様だってこれ、生身《なまみ》を持った身体《からだ》だ、飛道具でやられてたまるかい。ムク、こうしちゃあいられねえぞ、俺《おい》らに続け、合点《がってん》か」
身を沈めて飛び来る石瓦をかわしながら、後ろを振返ってムクに合図をすると、竿の頭から五色の網を払いのける、明《めい》晃
前へ
次へ
全148ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング