受け返す途端にまた一つ、米友の面《かお》を望んで飛んで来た石をすかさずパッと受け留めて、
「石の投銭《なげせん》というのは、鳥屋尾左京以来ねえ図だ、投げるなら投げてみろ、一つ二つとしみったれ[#「しみったれ」に傍点]な投げ方をするな、古市の町の石でも瓦でもありったけ投げてみやあがれ、それでも足りなきゃあ五十鈴川の河原の石と、宮川の流れの石とをお借り申して来て投げてみやがれ、それで足りねえ時は賽《さい》の河原《かわら》へ行って、お地蔵様の前からお借り申して来い、投げるのは手前《てめえ》たちの勝手だ、受けるのはこっちのお手の物だ、四尺に足りねえ米友の身体に汝《てめえ》たちの投げた石ころ一つでも当ったらお眼にかからあ、さあ投げろ、投げろ」
 米友は竿の先を手許《てもと》に繰《く》って、五色の網をキリキリと手丈夫に締め直すと、ヒューとまた鼻面《はなづら》に飛んで来たのを、鏡でも見るようにしてハッタと受けて、
「まだ早いやい、さあ来い!」
 竿を立て直すと、それが合図となって前後左右から注文通り、ヒューヒューと飛んで来る石と瓦が雨霰《あめあられ》。
「ムク、お前は俺の後ろに隠れていろ、その榎から
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