みかけたのをワザワザ解いて、ムクが啣《くわ》えて来た印籠を取り出して見せると、
「おやおや、たいそう結構な印籠――金蒔絵《きんまきえ》で、この打紐《うちひも》も根付《ねつけ》も安いものじゃありませんねえ」
「あんまり結構な品ですから、お役所へ届けなくては悪かろうと思いまして、それで今日は少し廻り道をして山田の方まで……」
お玉は、昨晩これを拾った始末を話そうとしている、金ちゃんの母親は目をすまして、その結構な印籠をながめていると、この時まで温和《おとな》しく縁先に坐っていたムク犬が、何に気がついてか頭を立てて竹藪《たけやぶ》の中へ真直ぐに眼を注ぎました。
ムク犬が竹藪を見込んだことは、なにか仔細がありげで、お玉にはそれが気がかりにならないことはありませんけれど、話しかけた筋は通さねばなりませんから、
「そういうわけで、わたしは山田へ廻りますから、もし後《おく》れて、わたしの間に合わない時には、お鶴さんを頼んで下さるように、お杉さんに、そうおっしゃって下さいまし」
お玉が、金ちゃんの母親を呼び込んだのは、この言伝《ことづて》をしてもらいたいからでありました。
「へえ、よろしゅうござ
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