けておいて、この手紙の上書《うわがき》は誰かに読んでもらいましょう、間の山へ行けば講釈の先生もいるわ、それでも遅いことはないでしょうと、わたし思う」
 お玉は手紙だけを懐中へ入れて、次にそれと一緒に頼まれたお金。
「お金のことがいっそう心配だわ、お金を預かっているのはなんだか心持が悪い」
 その時に、
「お玉ちゃん」
 子供の声。
 これは、ついこの隣りから、同じ間の山へ莚《むしろ》を敷く「足柄山《あしがらやま》」の子供でありました。ことし五歳で、体に相当した襦袢《じゅばん》、腹掛《はらがけ》に小さな草刈籠《くさかりかご》を背負《せお》い、木製の草刈鎌を持って、足柄山を踊る男の子でありました。
「金ちゃんかえ、おや、もうお仕度が出来て。お母さんは」
 垣根の外にお母さんがいる。
「お玉さん、お早う」
「お早うございます。おばさん、わたしはいま出がけに、お前さんのところへちょっとお寄り申そうと思っていたところなの、まあお掛けなさいまし」
 お玉は包みかけたものをそのままにして、金ちゃんの母親を縁側へ招いて、
「おかみさん、昨晩、わたしはこんな拾い物をしたのですよ、まあごらんなさい」
 包
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