笠縫《かさぬい》の里からこの伊勢の国|五十鈴川《いすずがわ》のほとりへおうつりになった時、そのお馬について来た「蠅《はえ》」が今の拝田村の中の一部落の先祖だということであります。
 人間の祖先と猿と同じいということは学者がいう、蠅が人間の先祖だということはここよりほかには聞かないこと。
 けれども、それはわざとそんなことを言って軽蔑したがるので、蠅はすなわち隼人《はいと》、隼人はすなわち大和民族のほかの古代史の一民族だともいう。
 隼人をその後には訛《なま》って「ほいと」と呼ぶ。「ほいと」の中から容貌のすぐれた女の子が、お杉お玉となって間《あい》の山《やま》へ現われるというのであります。
 それですから、お杉お玉のうちにはどうかすると抜群の美人が出る。「好色伊勢物語」という本に、
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「その容姿|麗《うる》はしくして都はづかし、三絃《さみ》胡弓《こきゅう》に得《え》ならぬ歌うたひて、余念なく居りけるを、参詣の人、彼が麗はしき顔色《かんばせ》に心をとられて銭を投掛くること雨の降り霧の飛ぶが如くなるを、かいふりてあてらるることなし」
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 お杉お玉
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