竜之助と会うことになってしまった。それがまた飛び放れて、紀伊の国の竜神という温泉場の宿屋のおかみさんにまでなってしまった。両眼の明を失った机竜之助を介抱して、呪《のろ》いの火に焼ける竜神村をあとにしてどこへか逃れて行ったが――落着く運命はついにここでありました。
今度こそは生き返る心配はありませんでした。遺書は主人へ宛てた一通だけで、ほかにはどこを探してもそれらしいのがありません。
よくよくあの歌につまされたものでしょう、遺書の書出しに記してあるのは、
[#ここから2字下げ]
花は散りても春は咲く
鳥は古巣へ帰れども
行きて帰らぬ死出の旅
[#ここで字下げ終わり]
七
お玉の家のあるところは、拝田村の中の一部落であって、その部落は特殊の因縁《いんねん》つきの部落であります。
因縁つきの部落とは、あからさまに言ってしまえば「穢多《えた》」の部落なのであります。そうしてお玉もそこで生れてそこで育ったのですから、生《は》え抜きの穢多なのであります。
一口に穢多とはいうけれども、ここの穢多は他所《よそ》の穢多とは少しく来歴を異にしていました。大神宮様が大和の国|
前へ
次へ
全148ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング