、そうしていま申す間《あい》の山《やま》あたりには、それが最も多いのであります。
 源氏車や菊寿《きくじゅ》の提灯《ちょうちん》に火が入って、水色縮緬《みずいろちりめん》に緋羅紗《ひらしゃ》の帯が、いくつも朧《おぼろ》の雪洞《ぼんぼり》にうつって、歌吹《かすい》の海に臙脂《べに》が流れて、お紺《こん》が泣けば貢《みつぐ》も泣く頃には、右の間の山から、中の地蔵、寒風《さむかぜ》の松並木、長峰の里あたりに巣をくった名物の乞食どもが、菰《こも》を捲いて、上り高のさし[#「さし」に傍点]を数えて、ぞろぞろと家路をさして引上げて来るのであります。秋に入ったとはいえ、陽気を受けたこの土地は、なかなか夜風の涼しさが肌に心地よいくらいで、昼は千早振《ちはやぶる》神路山《かみじやま》の麓、かたじけなさに涙をこぼした旅人が、夜は大楼の音頭《おんど》の色香《いろか》の艶《えん》なるに迷うて、町の巷《ちまた》を浮かれ歩いていますから、夜の賑《にぎわ》いも、やっぱり昼と変らないくらいであります。
 それも寒風の松並木のあたりへ来ると、グッと静かになって、昼の人出はどこへやら、常明寺《じょうみょうじ》から響く鐘の
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