、それもちっとやそっと高いところから落ちたんじゃねえ。野郎、喧嘩をしたな、喧嘩をして簀捲《すま》きにされて高いところから突き落されたんだ、これここに縄のあとがある、縄でギューギュー引括《ひっくく》られて突き落されたんだ、人をばかにしていやがる」
「先生、それに違いありません、どうかお静かに願います」
「お静かに? よし、それでは静かにしてやる」
道庵先生は、わざと段違いの低い声をする。
「まだ脈はございましょうか、見込はございましょうか」
身体《からだ》を一通り撫でてみた道庵先生が、
「ある!」
「ありますか」
「生きる!」
「ほんとに生き返りますか」
「大丈夫!」
「助かりますか」
「助かる!」
「どうか助けてやっておくんなさいまし」
老人は意気込む。
「あたりまえの野郎なら、助かりっこのねえところだが、この野郎のは助かるように出来ている」
「へえ」
「息を吹き返させるのは雑作《ぞうさ》はねえが、その前に痛みどころを繕《つくろ》っておかねえと、息を吹き返してからかえって苦しがる」
「へえ」
「まず肩胛骨《かたぼね》が外《はず》れている、それで左の手がブラブラだ」
「へえ」
「頸
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