なってしまいました。
「ああ、よい心持だ、長安の大道、酒家《しゅか》に眠るという意気はこれだな、ナニ、ここは長安の酒家じゃねえ、酒家でも堤の上でもそんなことは構わねえ、エート、天子呼び来《きた》れども船に上《のぼ》らずか――俺のところへはまだ天子様からお迎えは来ねえが、大名旗本にはこれでお得意が大分あるんだよ、大名旗本呼び来れども診察に行かずなんて、そんな野暮《やぼ》なことは俺は言わねえ、大名旗本であろうとも、乞食《こじき》非人《ひにん》であろうとも、十八文よこす奴はみんな俺のお得意様だからどこへでも行ってやる、矢でも鉄砲でも持って来い」
先生、ひとりで大気焔《だいきえん》を上げている。
「どうして世の中がこう面白いんだか、世間でクヨクヨしている奴の気が知れねえ、おしなべて天下の事が十八文できまりがつくんだ、十八文より高くもなし、そうかと言って十八文より安くもねえ、安いと高いは買いようによる」
なんだかロジックが変になってきました。道庵先生はいよいよ好い心持でウトウトとしていると、三味線、胡弓《こきゅう》と太鼓に合せた伊勢音頭《いせおんど》が、河波を渡って道庵先生のウトウトしかけた
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