見ていましたが、
「そいつは困ったことが出来た」
「何でございます」
「いえナニ、白状しないものをお仕置にかけて、もし本当の盗人が出た時には困りましょうなあ」
「それは困りましょうなあ」
「なんですか、その隠ヶ岡のお仕置場というのは誰でも見せてくれますか」
「山の下までは行けますがね、お仕置場のところへは入れませんや」
「へえ」
「しかし、山の下を廻って行けば行けないことはござんせんがね、そこは昼もお化けの出る古池で、人間の骨がゾクゾクしていますから、とても行かれませんや」
「左様でございますかね」
「それからその隠ヶ岡の下では、拝田村の芸人がたくさん集まって、あの男の命乞いをするといって騒いでいるそうでございますが、もうこうなってはお取上げになりますまいよ」
「左様でございますかね」
「あいつも根は正直者なんですが、ひょいとした出来心であんなことをしてしまったのでしょう、かわいそうといえばかわいそうですよ」
「それは気の毒なことをしました、どうも大きに有難う」
七兵衛はこれだけの話を聞いて、なんと思ったか、来かかった道を逆に帰って、米友のあとを追うて、見え隠れにどこまでもついて行き
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