りました」
「古市の備前屋というので」
「備前屋で?」
「お侍衆が音頭《おんど》を見物しておいでになる時に」
「あの男が?」
「左様」
「ほんとうに、あの男がやったのでございますかね」
「証拠があるんでございます」
「その証拠というのは?」
「梨子地《なしじ》の印籠に二十両の金」
「はてな」
「あいつのほかに相手が一人あるんでございます」
「相手というのは?」
「それは女でございますよ」
「女?」
「間の山へ出ていたお玉という女」
「へえ、そりゃ……」
「それで女の方は捉《つか》まらず、あいつだけが捉まったので」
「それで、なんでございますか、もう白状したのでございますか」
「剛情者ですから白状しないんでございます、けれども証拠がありますから」
「それで、どうなるんでございます」
「これからお仕置になるんでございます」
「お仕置に?」
「隠ヶ岡というのへ連れて行って、あれから下へ突き落すのでございます」
「は――て」
「こちらは御神領でございますからお仕置にも血を見せないようにして、それで隠ヶ岡から下へ突き落すのでございます」
「は――て」
七兵衛は過ぎて行く米友の後ろ影を伸び上って
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