い、提灯が取って食おうと言やしまいし」
「それじゃあ先生、こうして畳んで懐中へ忍ばせて持って参ることに致しやしょう」
「ばかを言え、こうして吊るして歩くんだ、これから蝋燭屋《ろうそくや》へ行って百目蝋燭の太いのを買ってやる」
「冗談《じょうだん》じゃありません、昼日中《ひるひなか》、提灯をつけて宇治山田の町を歩けるもんですか」
「ばかを言え、暗いところを提灯をつけて歩く分にゃ誰だって歩く、日中、提灯を点《つ》けて歩くからそこに味わいがあるのだ」
「あんまり味わいもありませんねえ」
「ぐずぐず言わずに早く歩け」
「弱ったなあ」
「弱ることはねえ、貴様はたいこもち[#「たいこもち」に傍点]の出来損《できそく》ないだ、それがここでちょうちんもち[#「ちょうちんもち」に傍点]に出世したんだ。有難く心得て持って歩け」
「先生、提灯はようござんすが、この十八文という文句を見ると、しみじみと情けなくなりますなあ」
「なんで十八文が情けねえ」
「だって先生、十八文じゃあ、あんまりあたじけ[#「あたじけ」に傍点]ねえ」
「馬鹿野郎」
 道庵先生は仙公の頭を一つぽかりと食らわせました。
「こりゃ驚きました
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