ころで提灯を誂《あつら》えなくてもよかりそうなものをという面をしています。
「仙公や、提灯がなくては何かにつけて不自由だから、ここで一つ仕込んで行くのだ、お前、好いのを見立てな」
「いろいろ出来合いがございます、お好みによってお印《しるし》を即座に入れて差上げます」
「先生、このブラ提灯のブラ下り具合が乙《おつ》でげすから、これに致しやしょう」
「よしよし、それにしよう」
「そうして、お印はどう致しましょう」
「先生の御紋は何でございましたっけね」
「定紋《じょうもん》なんぞ付けるには及ばねえ、そこんところへ十八文と書いてくんな」
「また始まった」
「十八文と入れますんでございますか、ここへ、ただ十八文だけでよろしゅうござんすか」
提灯屋はおかしな面《かお》をして道庵先生の面を見上げる。
「そうだ、十八文でよいのだ」
「先生、およしなすった方がようござんすぜ」
仙公は苦《にが》り切っている。
「ナニ構わねえ、俺が承知だ」
簡単な文句ですから、提灯屋は手提《てさげ》のブラ提灯へ早速「十八文」と入れてしまいました。
「さあ、仙公、これをつるして歩け」
「驚きましたね」
「驚くことはな
前へ
次へ
全148ページ中114ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング