て」
「ナニきまりの悪いことがあるものか、盗みも隠しもしねえ、十八文の先生は俺だ、薬礼を十八文ずつ取って、その金をチビチビ貯めて、それで伊勢参りに来たんだ、十八文がどうした」
「わかりましたよ、わかりましたよ、ああ冷汗《ひやあせ》が出ちまった」
仙公としては、これで大いに江戸っ児で納まって行きたいところなのであります。それを道庵先生が十八文十八文というものだから、自分までが安く見られるような気がして、弱りきって山田の町を歩いて行くのであります。
道庵先生と仙公とはこうして山田の町を歩いていたが、途中で道庵先生がふいと一軒の店へ立寄りました。その店は提灯屋。
「こんにちは、提灯を一つこしらえてもらいてえが」
「へい、おいでなさいまし」
「提灯の安物を一つ」
「提灯は、小田原でございますか、ブラでよろしゅうございますか、弓張《ゆみはり》に致しますか、それともまた別にお好みでも」
「ブラがいいね、ブラ提灯のなるだけよくブラブラするブラっぷりのいいやつを」
提灯屋は、先生酔ってるなと思っておかしがると、道庵先生は店先へ腰をかけてしまいました。仙公も仕方がないからその傍に立って、今こんなと
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