んで来る」
陸《おか》を見ていたお松は眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って、
「お祭礼《まつり》でもないようだし、ああ、だんだん大湊の町へ近くなる」
と見ると小林の船倉あたりから、高張提灯《たかはりぢょうちん》のようなものが二つ三つ見え出してきたから、
「おや、あそこは船倉じゃないか、お奉行様のお邸のあるところだと船頭衆が言っていた、あそこから高張が出たのは、いよいよ只事《ただごと》でないにきまってる」
お松が気を揉《も》み出した時に、
「おいおい、みんな来て見ろ、町で何か騒動が始まったぜ」
船中の者共は我れ先にと船縁《ふなべり》へ出て、そうして町の方を見物しながら、
「何だ何だ、火事か盗賊か」
「心配だから、わたし陸《おか》へ上って様子を見て来ます」
お松はたまり兼ねて、船頭の助蔵に向ってこう言いますと船頭が、
「お前さん一人はやれない、行くなら誰かつけてやるが、まあもう少し待ってみなさるがよかろう」
「どうしても行ってみます、あんなに騒がしいのは只事《ただごと》ではないから」
「そんなら誰か伝馬《てんま》を押せやい、勝、お松さんを陸《おか》まで連れて
前へ
次へ
全148ページ中108ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング