辺《てっぺん》から竜之助を見下ろして進んで来たので、
「いかにも一人旅」
竜之助も、それを睨《にら》み返すような気持で、例の無愛想な返事です。
「拙者も一人旅、御同行ねがいたい」
「いずれへおいであるな」
「京都まで」
「いかさま」
「柳緑花紅《やなぎはみどりはなはくれない》」の札の辻を、逢坂山《おうさかやま》をあとにして、きわめて人通りの乏しい追分の道を、これだけの挨拶で、両人は口を結んだまま、竜之助の方が一足先で、高屐《こうげき》の武士はややあとから、進み行くこと数町。
竜之助は、旅に出ても、こちらから人に話しかけたこともないし、同行を求めたこともない。わざわざ後ろから、我を見かけて呼び止めて同行を求めたこの武士にはどうも油断がならなかった。
自ら経験のあるものでなければわからない。竜之助の如き者から見れば直ぐ知れることだが、この武士は、好意で自分の道連れになったものでない、手っ取り早く言えば、自分を斬りに来たものである――近寄る時に、その人の心持次第で和気も受ければ殺気も受ける。
「いずれからおいででござるな」
壮士は問いかけた。
「関東より」
「関東……関東はいずれの御
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