大菩薩峠
壬生と島原の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)明《あ》いておりまする

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)京都三条|下《さが》る

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]
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         一

 昨日も、今日も、竜之助は大津の宿屋を動かない。
 京都までは僅か三里、ゆっくりとここで疲れを休まして行くつもりか。
 今日も、日が暮れた。床の間を枕にして竜之助は横になって、そこに投げ出してあった小さな本を取り上げて見るとはなしに見てゆくうちに、隣座敷へ客が来たようです。
「どうぞ、これへ」
 女中の案内だけが聞えて、客の声は聞えないが、畳ざわりから考えると一人ではないようです。
「お風呂が明《あ》いておりまする」
「ああ左様か、それではお前、さきにお入り」
「わたしはあとでようござんす」
「御一緒にお入りなされませ」
 客は若い男女の声、それが聞いたことのあるようなので
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