が相撲の贔屓《ひいき》となり、その力で、近々|壬生寺《みぶでら》に花々しい興行を催すという。
近藤勇と芹沢鴨とが正座にいるところへ、小野川秀五郎は盃をもらいに出かけて気焔《きえん》を吐いている。
この時、小野川はもういい年であったが、気負《きお》いの面白い男でよく飲む。
「小野川、貴様も大分いけるようだが、年をとったな」
近藤勇が言う。
「どう致して、相撲に年をとるというはごわせぬ」
「負惜しみを申すな、争われぬは額《ひたい》の皺《しわ》と鬢《びん》の白髪《しらが》。どうだ、一番おれと腕押しをやろうか」
「いやはや、近藤先生、剣にかけたら先生が無敵、力ずくではこの秀五郎が前に子供でがす」
小野川はこう言いながら、前にあった小皿をとってバリバリと噛《か》み砕《くだ》き、
「歯の力だけが、こんなもんじゃ」
「愉快愉快、も一つ飲め」
近藤勇は、小野川の老いて稚気《ちき》ある振舞《ふるまい》を喜んで話していると、芹沢は、さっきから席を周旋して廻るお松の姿に眼をつけて、
「いま銚子《ちょうし》を持って立った、あの可愛い女、あれはどこの子だ。ナニ、木津屋の養女だと。そうか、ゆくゆくは太夫
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