なくずれ出すのじゃ。よいか、他人事と思ってはいけないぞ」
「あに他人事と思うべえ、いちいち腹の底まで沁《し》み込むだ、有難え、有難え」
「さあ、その次だ――
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その時、能化《のうげ》の地蔵尊、
ゆるぎ出でさせ給ひつつ、
汝等いのち短くて、
冥途《めいど》の旅に来《きた》るなり、
娑婆と冥途は程遠し、
われを冥途の父母と、
思うて明暮《あけく》れ頼めよと、
幼き者を御ころもの、
もすその中にかき入れて、
哀れみ給ふぞ有難き、
いまだ歩まぬみどり子を、
錫杖の柄にとりつかせ、
忍辱慈悲《にんにくじひ》のみはだへに、
抱きかかへ撫でさすり、
哀れみ給ふぞ有難き――
[#ここで字下げ終わり]
南無延命地蔵大菩薩、おん、かかか、びさんまえい、そわか」
「郁坊、よく聞いておけ――他人事《ひとごと》では無《ね》え」
与八はホロホロと涙をこぼして、背の郁太郎を揺り上げる。
十四
今日は島原の角屋で大懇親会。
それは新撰組と大阪の大相撲とが大喧嘩《おおげんか》をしたその仲直り。
小野川秀五郎の口の利き方がよかったので、喧嘩の仲直りができた上に、新撰組
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