とだんべえ」
「そうだ、そうだ、それから次を唱えて聞かすぞ――」
[#ここから2字下げ]
かのみどり子の所作《しょさ》として、
河原の石を取り集め、
これにて回向《ゑかう》の塔を組む、
一|重《ぢゅう》、組んでは父のため、
二重、組んでは母のため、
三重、組んでは古里《ふるさと》の、
兄弟わが身と回向して、
昼はひとりで遊べども、
日も入相《いりあひ》のその頃は、
地獄の鬼が現はれて、
やれ汝等は何をする、
娑婆《しゃば》に残りし父母は、
追善作善《ついぜんさぜん》のつとめなく、
ただ明け暮れの嘆きには、
むごや悲しや不憫《ふびん》やと、
親のなげきは汝等が、
苦患《くげん》を受くる種となる、
われを恨むることなかれと、
くろがねの棒をさしのべて、
積みたる塔を押しくづす、
[#ここで字下げ終わり]
「どうじゃ与八、怖ろしいことではないか。頑是《がんぜ》ない子供がやっと積み上げた小石の塔を、鉄の棒を持った鬼が出て来て、みんな突きくずすのじゃ。なあ、これを他人事《ひとごと》と思ってはいけないぞ、追善作善のつとめというをせぬ者には、みんな鬼が出て来るじゃ、何をしてもみな成り立たないで、みん
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